2013年10月1日付で、医学部災害こころの医学講座の主任教授を拝命しました前田と申します。私は、災害精神医学という分野の臨床・研究に長く関わってきました。それまではずっと九州にいましたが、多くの災害被災地に赴いてきましたし、この福島県にも発災後から様々な業務で毎月支援に来ておりました。当初は、私が会長職にあった日本トラウマティック・ストレス学会の支援事業の一環として福島に来ていました。ちょうど、丹羽真一教授が放射線医学県民健康管理センターの仕事として、登録医制度を開始しようとされていた頃で、県内のあちこちに丹羽先生と出向き、講演をしていたことをよく思い出します。また産声を上げたばかりのふくしま心のケアセンターの顧問に就任し、とくに県北方部の活動を支援し、飯館村や浪江町の保健師さんらのケアを行っていました。
ただ個人的にとくに印象的だったのは、発災後しばらく休院のやむなきに至っていた雲雀が丘病院の再開支援の活動でした。発災翌年の2月でしたが、3週間ばかり南相馬市に滞在し、私に与えられた支援業務であったスタッフのケアを行いました。当時30数名のスタッフが困難な病院復興業務に携わっていました。私は看護師から事務員の方々まで全員、約30分ずつの時間で個別にお話を伺いました。その体験は私にとってとても大きく、九州に帰ってもしばらく眠れない日が続きました。同時にそれは、その後福島に来る原体験となったと思います(この体験は後に臨床精神医学誌にまとめました)。
また、こころのケアセンターでは中途から基幹センターの支援に入るようになり、そこではケアセンターの運営等に関する相談をよく受けていました。当時の基幹スタッフがなんとかセンターを軌道に乗せようと孤軍奮闘している姿をみて、大変な感銘を受けました。このようなスタッフと仕事ができればと当時から思っていて、それもまた後の本学に来る大きな動機となりました。
講座として当面行わなければならない課題は2つあります。一つは本学放射線医学県民健康管理センターにおける心のケア部門の充実、もう一つは、ふくしま心のケアセンターの人材育成等を通じた拡充です。前者に関しては、私は、2014年4月から新設された健康調査部門の責任者となりました。この部門は、こころの健康度・生活習慣に関する調査、妊産婦調査、健診調査の3つの調査室を管轄しています。これらの調査は3年間、ほぼ同じプロトコールで実施されましたが、今大幅な見直しの時期にきています。こころの健康度・生活習慣に関する調査だけでも、21万人の方々に対して毎年行われており、これほど大規模な精神保健調査は日本で初めての試みです。県民の方々の多くのご理解をいただき、また多くの被災者の支援にも直結する調査となりました。ただそこから浮かび上がってきた課題も少なくありません。とくに今後は、市町村関係者の意向も反映した、一層ケアに活かすことができる調査にしなければなりません。この調査は長い期間行わなければならないものですから、今後どのような調査であるべきかは大変大きなテーマであり、その策定の責任は重大であると認識しています。
また当講座にとってもう一つの大きな仕事が、ふくしま心のケアセンターの活動支援と人材育成ならびに調査研究支援です。私がセンター顧問であったこともあり、赴任以前から、上述したような形でケアセンターの運営や活動に関わっていました。現在、私は企画部門担当の副所長も兼務することとなりました。ケアセンターもまだ課題が多くある発展途上の組織ですが,私自身はその将来的な可能性を強く信じており、今後センターの活動に対し講座をあげて支援していこうと考えています。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
福島県立医科大学医学部災害こころの医学講座
主任教授 前田 正治